軽やかな足取りで階段を駆け下りる。 窓から射し込んだまぶしいくらいの朝の日差しが、きれいに磨かれた廊下の木目を照らし、足元からやわらかい温もりを伝える。 少女は制服の襟元をただしながら、せわしげに廊下を通りぬけ、玄関に足を下ろした。 家から駅まで徒歩10分、ホームルームに間にあう最後の列車まで残り8分を切っていた。 肩の少し上あたりでシャギー独特の曲線を描く髪の向こうに、朝食のフレンチトーストがモゴモゴ動く様がうかがえるあたり、朝のあわただしさが感じられる。 しかし本人はいたって余裕でいる。 手の平サイズの靴べらを下駄箱に戻すと、かかとを整えながら立ちあがる。当然いつもの革カバンとカバンより幅の広い、昼食のはいった巾着は忘れない。 「いってきま〜ふっ!」 最後の一切れを頬ばりながら、結城まなみは、玄関から駆け出していった。 淡いブルーの膝上ストッキングに校則規定内ギリギリまで裾上げされたスカートと、襟元をはためくマフラーが季節の変わり目を感じさせる。 10月も終わりに近づき、外の景色がみるみる冬色になっていく。 朝は特にそれが感じられる。 張り詰めた冷たさが醸し出す、全てが浄化されたような大気のにおい。 まなみは寒さは苦手な方だが、この朝の雰囲気はすこぶる気に入っていた。自然、顔がほころぶ。 「おばぁちゃんっ、おっはよ〜」 マフラーとスカートをはためかせながら、屈託なくご近所の住人に挨拶をとばす。 「おはよう、まなみちゃん。いつも元気だねぇ」 そんないつもの挨拶を遠くに聞きながら、軽快に飛ばすまなみ。その日、まなみは自己ベスト更新に成功する。 いつもどおりの日常のはじまりだった。 |