---- 教会跡
 始業式が終わっても、学園周辺の慌ただしさがおさまる気配はなかった。
 紗々川は丘を登りきったところで振り返る。
 学園が一望できた。報道、警察、それらに対応する学園関係者。全てが遠くに感じる。

 彼女は今ごろ、どうしているだろう。
 ふと思う時がある。
 刑務所の中だろうか、それとも、どこかの病院だろうか。
 紗々川は乏しい想像力を働かせる。元々事件などというものに縁は無いからすぐに枯渇する。
 どちらにせよ、彼女には関係のないことだ。
 結局、いつもの結論にいたる。
 吾妻のぞみの心は、誰にも触れられない。そして、誰に干渉されることもなく、彼女は楽しかった日々を送っているだろう。永遠に。

 数日前までは、いろいろな人が入れ替わり立ち代わり忙しなかった教会跡も、元の姿を取り戻していた。
 ただ一つだけ増えた物があった。桜の木の袂に添えられた花束がそれである。
 4人目の犠牲者を弔うため、クラスメートや、教師や、肉親が代わり代わり供えているらしい。
 紗々川も同じ事を考えたが、止めることにした。
 花束の前にしゃがみこむ。その向こうには、やはり血の跡が広がっていて、桜の幹にもくっきりと残っている。
 でも、構わずに桜は咲き乱れていた。
 今となっては何も感じなくなったが、それでも綺麗だとは思えない。
「私、あの子のこと、好きだった」
 桜を見上げながら紗々川はぽつりと呟いた。
「うつつ世は、ままならないものよ」
 瞳を琥珀色に変えて、紗々川は応えた。


―― 了

 
−  −あとがき