S7青木雅美

 体育の授業が終わって教室に帰ってみると、盗られたはずのポシェットは、あっさり見つかった。
 いつもは朝、教室に入ってすぐにカバンから机に移し替えるのだが、忘れてしまったらしい。
 やはり昨晩の書き込みのせいなのだろう、と思い至って雅美は気づいた。
 おかしいのは周りの生徒じゃなくて自分なのだ、だれも陰口なんて言ってないし、イジメのきっかけを待っているわけでもない。ただの被害妄想なのだと雅美は結論づけた。

 そうなると気持ちが妙に晴れ晴れとした。周囲の態度もよくよく思い返してみればいつもと変わりない。
 先ほどまで帰り道が同じだった4人組も寄り道に誘ってくれたり、いつもよりテンションの高い会話だったりしたのも雅美を元気づけようという気遣いだったのかもしれない。
 確かに昨晩の書き込みは気になるが、それは自分だけなのかもしれない。クラスの皆が見ていないなどと楽観するほど間抜けではないが、尾野と自分との事がもう忘れられているのなら、あの書き込みは意味のないものだ。

 気が付けば家にたどり着いていた。
 門をあけ、庭を抜けて玄関の鍵を開ける。
 雅美は一人っ子で、ご多分にもれず両親は共働きだからこの時間、家にはだれもいない。
 それは分かっているのに、彼女は珍しく「ただいま」などと言ってみたりした。


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