S4保健室T

「ウチの学園って、丘の上にあるじゃないですか。
 ちゃんとした道は正門からの道路しかなくって、新しい道路をつくろうとか、新校舎を建てようって話もあったらしいんですけど、どれも中止になってるんです。丘っていうワリに鬱蒼とした林に囲まれてるのが原因らしくて、よく分からないですけど。
 なんでも、運動系のクラブが練習に使ってたりするんですけど、たまに迷子がでちゃうくらい。
 で、そういう工事を見越して、正門の真逆に東門があるんです。今は使われていないんですけど。
 その近くに小さな祠があるんですよ。何が祭られているのか分からないくらいボロくてちっちゃいの。
 んで、林で迷子になって彷徨ってた部員がそれを見つけて、「ああ、やっと出れた」って安心して東門を通ろうとするんですけど、そこでありえない光景に驚くんですよ。
 東門の横に瓜二つの、もう一つ東門が並んでるんです。
 ぶっちゃけビビっちゃうじゃないですか。そんな怪しい東門なんてくぐろうとは思わないから、正門まで戻るんですけど、たまーにそのまま東門を通る猛者がいるらしいんですよね。
 でも、間違って偽物の東門を通ったりすると、そのまま行方不明になっちゃう。
 どうやら、その東門が現れる日っていうのが、初代学園長のお孫さんが交通事故で亡くなった命日らしくて、そのお孫さんが友達欲しさに誘ってるんだって噂なんですよねー」

「……え? それは知らないですね。ていうか、いつが命日とか誰も知らないんじゃないかなー」

「あ、コッチも東門が関係する話なんですけど、部活で迷子になった生徒が、東門の前で、見たことない制服姿の学生を見かけたって言うんですよ。
 他校の生徒かなーって普通思うんだけど、明らかに今の学生じゃありえない、頭巾をかぶってるっていうの。座布団をそのまま縫い直したみたいなゴワゴワっとした頭巾。
 それも所どころ焼け焦げた頭巾で、戦争中の防空頭巾っていうの? ああいうヤツ。
 そんな格好で、寂しそうに学園の方を見ているんだって。
 薄気味悪くなって、大抵はその場から逃げちゃうんだけど、不思議なことに迷子になった生徒たちは、頭巾の生徒を遠目にしか見ていないのだけど、でも、どういうわけか頭巾の端に縫いつけられた名札ははっきり見たって言うのね。
 そこには神野恵って書いてあった。
 んで、後日学園の資料を調べてみると、その制服ってのが、ウチの昔の制服なんだって。おまけに神野恵なんて生徒は、過去の学生名簿を見てもどこにも居ない。
 ただ、決してやってはいけないのが、頭巾の生徒に声を掛ける事。うっかりその生徒に声をかけた人はきっちり3日後、交通事故に遭うんだそうですよ」

「いや、今は事故で入院してる生徒はいないんじゃないかな? ていうか、そーゆーのって久川先生のほうが詳しいんじゃないんですか?」




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