S6学園U

 ポケットから取り出した愛車のキーを指先でくるくる回しながら、駐車場へ向かう。
『姉妹ってこういうもんかしらねー』
 決して仲が悪いというわけではない。日常生活だってお互いに役割分担できているし、共同生活として成り立っている。だから問題があるわけではない。
 かといって、一緒に過ごすだけというならルームメイトとなんら変わりないのだろうし、では、姉妹という関係はどうだろうか。
 悩みというには大げさな、けれど心の隅にひっかかるモノを感じていた摩耶にとってさきほどの出来事は、少し吉巳に近づけた気がして素直に喜べた。厳密には吉巳が歩み寄ってくれたわけで、それを自分はうまく受け入れる事ができたのでは、と思う。
 少しづつ信頼関係を築いていけばいい、改めて思う。そういうところはカウンセリングと同じで、相手に信頼してもらうことが大前提となる。
「すみません、久川先生」
「はいはーい」
 振り返ってみると、摩耶を追いかけてきた様子の女子生徒がいた。
 この学園には、創立時から在る3棟の校舎とは別に、通称『別棟』と呼ばれる新築の校舎がある。授業では使われない、事務作業や来賓の応対が目的に建てられたそれは、校舎群から少し離れた位置にあり、学生の姿もあまり見かけられない。
 その裏手にある駐車場も職員用であるから、そんな場所で生徒を見かけるというのは、ちょっとした違和感を感じる。
 眉の上で切りそろえた前髪に、化粧っ気のない顔、後ろ髪は肩口で切りそろえられ、おとなしそうな印象の生徒。
 ブレザーの襟元のピンで3年生とわかるが、見知った顔ではなかった。
「先生、学園長先生がお呼びです」
 一瞬違和感をおぼえる。学園長とは当然ながら赴任時に挨拶を交わしている。70歳くらいだったろうか、相応の威厳を保ちつつも気さくな感じで印象は悪くなかった。否、学園関係者に呼ばれることはおかしくない。
 違和感を確認するように、摩耶は答えた。
「神野学園長が?」




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