S16応接室W

 学籍簿などの資料を束ねると、女子生徒は席を立ち、入れ替わりにもう一人が座った。
「先生は文科省の方なんですよね?」
 これで3人目になる自称『神野恵』の問いかけに摩耶は答える。
「そそ、簡単に言うと警視庁の依頼で私達が動いているって事ね。警察にもいくつか研究部署はあるんだけど、それでも外部委託しなくちゃいけないくらい警察は混乱してたのよ」

 言いながら摩耶は、応接室を出ようとする2人目の神野恵を目で追う。
 開いた扉の向こうに、携帯電話を持った女子生徒が3人ほど見えた。通話しているわけではなく、メールかなにかを操作しているようだった。

「パーソナリティの分類は、現在のところ8つ。論説によってはイロイロあるんだけど、複雑なのでここは割愛ね。けれど、90年代初めから増えだした中高生の犯罪は、これらで分類しきれなかった。というよりは、型には収まりはするものの、どうしても矛盾を抱えてしまう、というところね。
 これは、今までの犯罪捜査を覆すものだった。人が罪を犯すのって基本的に、金銭目的か怨恨だったのよ、いままでは。
 お金は物質的摩擦、怨恨は心理的摩擦ととらえるのが分かり易かったりするかな?
 極論すれば、このどちらかが理由で人は罪を犯す。警察の犯罪捜査も犯人の目的がいづれであるか最初に判断する。
 でも、『彼ら』の行動はどちらにも当てはまらなかった」
「それは、相手がまだ子供だからじゃないんですか?」
「うんそう、するどいね。精神的に未成熟だから、判定できないんじゃないの、ってことよね。けれどそれは、青年心理学とか発達心理学としてまとめられているのね。私も元はそっちの研究で文科省に来たんだけど。
 私は、その時期の彼らに9つ目のパーソナリティがあると考えた。
 パーソナリティがまだ確立していない時期の特有なパーソナリティ。
 便宜上、"第九症例"と呼んでいるわ。病気じゃないんだけどね。
 ただ症例とはいっても、まだまだ数が少ない。メディアが好む事例が多いから、件数が急増しているように思われがちなんだけどね」




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